◇。◇。◇。 【母を尋ねて三千里】 【アミーチス】 【日本童話研究会訳《日本童話研究会ヤク》】 ◇。◇。◇。 【第一章】 ──── ◇。◇。◇。  もう何年か前、ジ《/ジ》ェノアの少年で十三になる男の子が、ジェノアからアメリカまでた《/た》だ一人で母をたずねて行きました。  母親は二年前にアルゼンチンの首府ブ《/ブ》エーノスアイレスへ行ったのですが、《:、》それは一家がいろいろな不幸にあって、すっかり貧乏になり、たくさんなお金を払わねばならなかったので母《/母》は今一度お金持《金持ち》の家に奉公してお《/お》金をもうけ一家《/一家》が暮せるようにしたいがためでありました。  このあわれな母親は十八歳になる子と十一歳《/十一歳》になる子とをおいて出かけたのでした。  船は無事で海の上を走りました。  母親はブエーノスアイレスにつくとすぐに夫《/夫》の兄弟にあたる人の世話でそ《/そ》の土地の立派な人の家に働くことになりました。  母親は月に八十リラずつもうけましたが自分《/自分》は少しも使わないで、三月《ミツキ》ごとにたまったお金を故郷へ送りました。  父親も心の正しい人でしたから一生懸命に働いてよ《/よ》い評判をうけるようになりました。父親のただ一つのなぐさめは母親《/母親》が早くかえってくるのをま《待》つことでした。母親がいない家《うち》はまるでからっぽのようにさびしいものでした。ことに小さい方《ほう》の子は母を慕って毎日泣いていました。  月日は早くもた《経》って一年《/一年》はすぎました。母親の方《ほう》からは、身体の工合が少しよくないというみじかい手紙がきたきり、何《なん》の|たよ《便》りもなくなってしまいました。  父親は大変心配して兄弟《/兄弟》の所へ二度も手紙を出しましたが何《/何》の返事もありませんでした。  そこでイタリイの領事館からたずねてもらいましたが、三月《ミツキ》ほどたってから「新聞にも広告してずいぶんたずねましたが見あたりません|。」《」》といってきました。  それから幾月《イクツキ》かた《経》ちました。何《なん》の|たよ《便》りもありません。父親と二人の子供は心配でなりませんでした。わけても小さい方《ほう》の子は父親にだ《抱》きついて「お母さんは、お母さんは、」といっていました。  父親は自分がアメリカへいって妻を|さが《探》してこようかと考えました。けれども父親は働かねばなりませんでした。一番年上の子も今《/今》ではだんだん働いて手助《手助け》をしてくれるので、一家にとっては、はなすわけにはゆきませんでした。  親子は毎日悲しい言葉をくりかえしていると、ある晩、小さい子のマルコが、 「お父さん僕《/僕》をアメリカへや《’や》って下さい。おかあさんをたずねてきますから。」  と元気のよい声でいいました。  父親は悲しそうに、頭をふって何《/なん》の返事もしませんでした、《:、》父親は心の中で、「どうして小さい子供を一人で一月《ひと月》もかかるアメリカへやることが出来よう。大人でさえなかなか行けないのに|。」《」》と思ったからでした。  けれどもマルコはどうしてもききませんでした。その日も、その次の日も、毎日毎日、父親にすがりついて|たの《頼》みました。 「どうしてもやって下さい。外《ほか》の人だって行ったじゃありませんか。一《いっ》ぺんそこへゆきさえすればおじさんの家を|さが《探》します。もしも見つからなかったら領事館をたずねてゆきます。」  こういって父親にせがみました。父親はマルコの勇気にすっかり動かされてしまいました。  父親はこのことを自分の知っているある汽船の船長に話しすると船長《/船長》はすっかり感心してア《/ア》ルゼンチンの国へ行く三等切符を一枚ただ《だで》くれました。  そこでいよいよマルコは父親《/父親》も承知してくれたので旅立つことになりました。父と兄とはふくろにマルコの着物を入れ、マルコのポケットにいくらかのお金を入れ、おじさんの所書《所書き》をもわたしました。マルコは四月の晴れた晩、船にのりました。  父親は涙を流してマルコにいいました。 「マルコ、孝行の旅だから神様《/神様》はきっと守って下さるでしょう。勇気を出して行きな、どんな辛いことがあっても。」  マルコは船の甲板に立って帽子《/帽子》をふりながら叫びました。 「お父さん、行ってきますよ。きっと、きっと、‥‥」  青い美しい月の光りが海の上にひろがっていました。  船は美しい故郷の町を|はな《離》れました、《:、》大きな船の上にはたくさんな人たちが乗りあっていましたがだ《/だ》れ一人として知る人もなく、自分一人小《自分一人/小》さなふくろの前にうずくまっていました。  マルコの心の中にはいろいろな悲しい考えが浮んできました。そして一番悲しく浮んできたのは──おかあさんが死んでしまったという考えでした。マルコは夜もねむることが出来ませんでした。  でも、ジブラルタルの海峡がす《過》ぎた後で、はじめて大西洋を見た時には元気《/元気》も出てきました。望《望み》も出てきました。けれどもそれはしばらくの間でした、自分が一人ぼっちで見知らぬ国へゆくと思うと急《/急》に心が苦しくなってきました。  船は白い波がしらをけって進んでゆきました。時々甲板《ときどき甲板》の上へ美しい飛魚が|はね上《跳ね上が》ることもありました。日が波のあちらへおちてゆくと海《/海》の面《オモテ》は火のように真赤《真っ赤》になりました。  マルコはもはや力も抜けてしまって板《/板》の間に身体をのばして死《/死》んでいるもののように見えました。大ぜいの人たちも、|たいくつ《退屈》そうにぼんやりとしていました。  海と空、空と海、昨日も今日も船は進んでゆきました。  こうして二十七日間つづきました。しかししまいには凉しいいい日がつづきました。マルコは一人のおじいさんと仲よしになりました。それはロムバルディの人で、ロサーリオの町の近くに農夫をしている息子をたずねてア《/ア》メリカへゆく人でした。  マルコはこのおじいさんにすっかり自分の身の上を話しますと、おじいさんは大変同情して、 「大丈夫だよ。もうじきにおかあさんにあ《会》われますよ。」  といいました。  マルコはこれをきいてた《/た》いそう心を丈夫にしました。  そしてマルコは首にかけていた十字のメダルにキスしながら「どうかおかあさんにあ《会》わせて下さい|。」《」》と祈りました。  出発してから二十七日目、それは美しい五月の朝、《:、》汽船はアルゼンチンの首府ブエーノスアイレスの都の岸にひろがっている大《/大》きなプラータ河《川》に錨を下ろしました。マルコは気ちがいのようによろこびました。 「かあさんはもうわずかな所《ところ》にいる。もうしばらくのうちにあ《会》えるのだ。ああ自分《/自分》はアメリカへ来たのだ。」  マルコは小さいふくろを手に持ってボ《/ボ》ートから波止場に上陸して勇《/勇》ましく都の方《ほう》に向って歩きだしました。  一番はじめの街の入口にはいると、マルコは一人の男に、ロ《ロ-》スアルテス街へ行くにはどう行けばよいか教えて下さいとたずねました、《:、》ちょうどその人はイタリイ人でありましたから、今自分《いま自分》が出てきた街を指《指さ》しながらて《/て》いねいに教えてくれました。  マルコはお礼をいって教えてもらった道を急ぎました。  それはせまい真《真っ》すぐな街でした。道の両側にはひくい白い家がた《立》ち|なら《並》んでいて、街にはたくさんな人や、馬車や、荷車がひっきりなしに通っていました。そしてそこにもここにも色々な色をした大きな旗がひるがえっていて、それには大きな字で汽船の出る広告が書いてありました。  マルコは新しい街にくるたびに、それが自分のさがしている街ではないのかと思いました、《:、》また女の人にあ《会》うたびにも《/も》しや自分の母親でないかしらと思いました。  マルコは一生懸命に歩きました。と、ある十文字になっている街へ出ました。マルコはそのかどをまがってみると、それが自分のたずねているロスアルテス街でありました。おじさんの店は175番でした。マルコは夢中になってか《駆》け出しました。そして小さな組糸店に|はい《入》りました。これが175でした。見ると店には髪の毛の白い眼鏡《/眼鏡》をかけた女の人がいました。 「何か用でもあるの?」  女はスペイン語でたずねました。 「あの、これはフランセスコ《コ-》メレリの店ではありませんか。」 「メレリさんはずっと前に死にましたよ。」  と女の人は答えました。  マルコは胸をうたれたような気がしました、そして彼は早口にこういいました。 「メレリが僕のおかあさんを知っていたんです。おかあさんはメキネズさんの所へ奉公していたんです。わたしはおかあさんをたずねてアメリカへ来たのです。わたしはおかあさんを見つけねばなりません。」 「可愛そうにねえ!」  と女の人はいいました。そして「わたしは知らないが裏《/裏》の子供にきいて上げよう。あの子がメレリさんの使《使い》をしたことがあるかもしれないから──、」  女の人は店を出ていってそ《/そ》の少年を呼びました。少年はすぐにきました。そして「メレリさんはメキネズさんの所へゆかれた。時々わたしも行きましたよ。ロスアルテス街の|はし《ハシ》の方《ほう》です。」  と答えてくれました。 「ああ、ありがとう、奥さん」  マルコは叫びました。 「番地を教えて下さいませんか。君《キミ》、僕と|一しょ《一緒》に来てくれない?」  マルコは熱心にいいましたので少年《/少年》は、 「では行こう」  といってすぐに出かけました。  二人はだまったまま長い街を走るように歩きました。  街の|はし《端》までゆくと小《/小》さい白い家の入口につきました。そこには美しい門がた《建》っていました。門の中には草花の鉢がたくさん見えました。  マルコはいそいでベルをおしました。すると若い女の人が出てきました。 「メキネズさんはこ《’こ》こにいますねえ?」  少年は心配そうにききました。 「メキネズさんはコルドバへ行きましたよ。」  マルコは胸がドキドキしました。 「コルドバ? コルドバってどこです、そして奉公していた女はどうなりま《ま-》したか。わたしのおかあさんです。おかあさんをつれて行きましたか。」  マルコはふるえるような声でききました。  若い女の人はマルコを見ながらいいました。 「わたしは知りませんわ、もしかするとわたしの父が知っているかもしれません、しばらく待っていらっしゃい。」  しばらくするとその父はかえってきました。背の高いひ《/ひ》げの白い紳士でした。  紳士はマルコに 「お前のおかあさんはジェノア人でしょう。」  と問いました。  マルコはそうですと答えました。 「それならそのメキネズさんのところにいた女の人はコ《/コ》ルドバという都へゆきましたよ。」  マルコは深いため息をつきました。そして 「それでは私はコルドバへゆきます。」 「かわいそうに。コルドバはここから何百哩《何百マイル》もある。」  紳士はこういいました。  マルコは死んだように、門によりかかりました。  紳士はマルコの様子を見て、かわいそうに思いし《/し》きりに何か考えていました。が、やがて机に向《向か》って、一通《1通》の手紙を書いてマ《/マ》ルコに|わた《渡》しながらいいました。 「それではこの手紙をポカへ持っておいで、ここからポカへは二時間ぐらいでゆかれる。そこへい《行》ってこの手紙の宛名になっている紳士をたずねなさい。|たれ《誰》でも知っている紳士ですから、その人が明日お前をロサーリオの町へ送ってくれるでしょう、《:、》そこからまた|たれ《誰》かにたのんでコルドバへゆけるようしてくれるだろうから。コルドバへゆけばメ《/メ》キネズの家もお前のおかあさんも見つかるだろうから、それからこれをおもち。」  こういって紳士はいくらかのお金をマルコにあたえました。  マルコは《は’》ただ「ありがとう、ありがとう」といって小さいふくろを持って外へ出ました。そして案内してくれた少年とも別れてポ《/ポ》カの方《ほう》へ向《向か》って出かけました。 ◇。◇。◇。 【第二章】 ──── ◇。◇。◇。  マルコはすっかり|つか《疲》れてしまいました。息が苦しくなってきました。そしてその次の日の暮れ方、果物をつ《積》んだ大きな船にのり込みました。  船は三日四晩走《三日4晩’走》りつづけました。ある時は長い島をぬ《縫》うてゆくこともありました。その島にはオレンヂの木がしげっていました。  マルコは船の中で一日に二度ずつ少《/少》しのパンと塩《/塩》かけの肉を食べました。船頭たちはマルコのかなしそうな様子を見て言葉《/言葉》もかけませんでした。  夜になるとマルコは甲板で眠りました。青白い月《’月》の光りが広々《/広々》とした水の上や遠《/遠》い岸《’岸》を銀色に照しました、《:、》マルコの心はしんとおちついてきました。そして「コルドバ」の名を呼んでいるとま《”ま》るで昔|ばなし《話》にきいた不思議な都のような気がしてなりませんでした。  船頭は甲板に立って|うた《歌》を|うた《歌》いました、そのうたはちょうどマルコが小さい時お《/お》かあさんからきいた子守唄のようでした。  マルコは急になつかしくなってと《/と》うとう泣き出してしまいました。  船頭は歌をやめるとマルコの方《ほう》へか《駆》けよってきて、 「おいど《/ど》うしたので《だ》、しっかりしなよ。ジェノアの子が国から遠く来たからって泣くことがあるものか。ジェノアの児《子》は世界にほこる子だぞ。」  といいました。マルコはジェノア|たましい《タマシイ》の声をきくと急《/急》に元気づきました。 「ああそうだ、わたしはジェノアの児《子》だ。」  マルコは心の中で叫びました。  船は夜のあ《明》け方に、パラアナ河《川》にのぞんでいるロ《/ロ》サーリオの都の前にきました。  マルコは船をすててふ《/ふ》くろを手にもってポ《/ポ》カの紳士が書いてくれた手紙をもってア《/ア》ルゼンチンの紳士をたずねに町《/町》の方《ほう》をゆきました。  町《町’》にはたくさんな人や、馬や、車がたくさん通っていました。  マルコは一時間あまりもたずね歩くと、やっとその家を見つけました。  マルコはベルをならすと家《/家》から髪の毛の赤い意地《/意地》の悪そうな男が出てきて 「何《なん》の用か、」  とぶっきらぼうにいいました。  マルコは書いてもらった手紙を出しました。その男はその手紙を読んで 「主人は昨日の午後ブ《/ブ》エーノスアイレスへ御家《/御家》の人たちをつれて出かけられた。」  といいました。  マルコはどういってよいかわかりませんでした。ただそこに棒のように立っていました。そして 「わたしはここでだれも知りません。」  と|あわ《哀》れそうな声でいいました。するとその男は、 「物もらいをするならイタリイでやれ、」  といってぴしゃりと戸をしめてしまいました。  マルコはふくろをとりあげてし《/し》ょんぼりと出かけました。マルコは胸をかきむしられたような気がしました。そして 「わたしはど《’ど》こへ《へ’》行ったらよいのだろう。もうお金もなくなった。」  マルコはもう歩く元気もなくなって、ふくろを道におろしてそ《/そ》こに|うつむ《俯》いていました、《:、》道を通りがかりの子供たちは立《/立》ち止《止ま》ってマルコを見ていました。マルコはじっとしておりました。するとやがて「おいど《/ど》うしたんだい|。」《」》とロムバルディの言葉でいった人がありました。マルコはひょっと顔を上げてみると、それは船の中で|一しょ《一緒》になった年《/年》よったロムバルディのお百姓でありました。  マルコはおどろいて、 「まあ、おじいさん!」  と叫びました。  お百姓《ヒャクショウ》もおどろいてマルコのそばへかけて来ました。マルコは自分の今までの有様を残らず話しました。  お百姓は大変可愛そうに思って、何かしきりに考えていましたが、やがて、 「マルコ、わたしと一緒にお出でど《/ど》うにかなるでしょう。」  といって歩き出しました。マルコは後について歩きました。二人は長い道を歩きました、やがてお百姓は一軒の宿屋の戸口に立ち止りました。看板には「イタリイの星」と書いてありました。  二人は大きな部屋へはいりました。そこには大勢《大ぜい》の人がお酒をのみながら高《/高》い声で笑いながら話しあっていました。  お百姓はマルコを自分の前に立たせ皆《/皆》にむかいながらこう叫びました。 「皆さん、しばらくわたしの話を聞いて下さい、ここにかわいそうな子供がいます。この子はイタリイの子供です。ジェノアからブエーノスアイレスまで母親をたずねて一人で来た子です。ところがこんどはコルドバへ行くのですがお《/お》金を一銭も持っていないのです。何とかいい考えが皆さんにありませんか。」  これをきいた五六人《ゴロクニン》のものは立ち上《上が》って、 「とんでもないことだ。そんなことが出来るものか」  といいました。するとその中の一人は、テエ《ー》ブルをたたいて、 「おい、我々の兄弟だ。われわれの兄弟のために助けてやらねばならぬぞ。全く孝行者だ。一人でき《来》たのか。ほんとに偉いぞ。愛国者だ、さあこちらへ来な、葡萄酒でもの《飲》んだがよい。わしたちが母親のところへとどけてあげるから心配しないがよい。」  こういってその男はマルコの肩をたたきふ《/ふ》くろを下《下ろ》してやりました。  マルコのうわさが宿屋中《宿屋じゅう》にひろがると大勢《/大ぜい》の人たちが急いで出てきました、《:、》ロムバルディのおじいさんはマ《/マ》ルコのために帽子を持ってまわるとた《/た》ちまち四十二リラのお金があつまりました。  みんなの者はコップに葡萄酒をついで、 「お前のおかあさんの無事を祈る|。」《」》といっての《飲》みました。  マルコはうれしくてどうしてよいかわからずた《/た》だ「ありがとう|。」《」》といって、おじいさんのくびに飛びつきました。  つぎの朝マ《/マ》ルコはよろこび勇んでコルドバへ向って出かけました。マルコの顔はよろこびにかがやきました。  マルコは汽車にのりました。汽車は広々とした野原を走ってゆきました。つめたい風が汽車の窓からひゅっと|はい《入》ってきました。マルコがジェノアを出た時は四月の末でしたがも《/も》う冬になっているのでした。けれどもマルコは夏の服を着ていました。マルコは寒くてなりませんでした。そればかりでなく身体《/身体》も心もつかれてしまって夜《/夜》もなかなか眠ることも出来ませんでした。マルコはもしかすると病気《/病気》にでもなって倒れるのではないかと思いました。おかあさんにあ《会》うことも出来ないで死んだとしたら‥‥《:‥》マルコは急にかなしい心になりました。  コルドバへゆけばきっとお母さんにあ《会》えるかしら、|ほんとう《本当》におかあさんにあ《会》うことがたしかに出来るかしら。もしもロスアルテス街の紳士が間違ったことをいったのだとしたらどうしよう。マルコはこう思っているうちに眠ってゆきました。そしてコルドバへ行っている夢を見ました、それは一人のあやしい男が出てきて、「お前のおかあさんはこ《’こ》こにいない|。」《」》といっている夢でした。マルコははっとしてとびおきると自分《/自分》の向《向こ》うの|はし《端》に三人の男が恐《/恐ろ》しい眼つきで何か話していました。マルコは思わずそこへかけよって、 「わたしは何も持っていません。イタリイから来たのです。おかあさんをたずねに一人でき《来》たのです。貧乏な子供です。どうぞ、何もしないで下さい。」  といいました。  三人の男は彼をかわいそうに思ってマ《/マ》ルコの頭をなでながらい《/い》ろいろ言葉をかけ一枚《/一枚》のシオルをマルコの体にまいて、眠られるようにしてくれました。その時はもう広い野には夕日《/夕日》がおちていました。  汽車がコルドバにつくと三人《/三人》の男はマルコをおこしました。  マルコは飛びたつように汽車から飛び出しました。彼は停車場の人にメ《/メ》キネズの家はどこにあるかききました。その人はある教会の名をいいました。家は《は’》そのそばにあるのでした。マルコは急いで出かけました。  町《町’》はもう夜でした。  マルコはやっと教会を見つけ出して、ふるえる手でベルをならしました。すると年取った女の人が手《/手》にあかりを持って出てきました。 「何か用がありますか」 「メキネズさんはいますか。」  マルコは早口にいいました。  女の人は両手をく《組》んで頭をふりながら答えました。 「メキネズさんはツークーマンへゆかれた。」  マルコはがっかりしてしまいました、そしてふるえるような声で、 「そこはどこです。どのくらい|はな《離》れているのです。おかあさんにあ《会》わないで、死んでしまいそうだ。」 「まあ可愛そうに、ここから|四五百哩はな《シゴヒャ-クマイル離》れていますよ。」  女の人は気の毒そうにいいました。  マルコは顔に手をおしあてて、「わたしはどうしたらいいのだろう、」  といって泣き出しました。  女の人はしばらくだまって考えていましたが、やがて思い出したように、 「ああ、そうそう、よいことがある、《:、》この町を右の方へゆ《’ゆ》くと、たくさんの荷車を牛にひかせて明日《/明日》ツークーマンへ出かけてゆく商人がいますよ。その人に頼んでつれていってもらいなさい。何か手つだいでもすることにして、それが一番よい今《/今》すぐに行ってごらんなさい。」  といいました。  マルコはお礼をいいながらふくろをかつぎ急《/急》いで出かけました。しばらくゆくとそこには大ぜいの男が荷車《/荷車》に穀物のふくろをつ《積》んでいました。丈《セイ》の高い口《/口》ひげのある男が長靴をは《履》いて仕事《/仕事》の指図をしていました。その人がこの親方でした。  マルコはおそるおそるその人のそばへ行って「自分もどうかつ《連》れていって下さい。おかあさんを|さが《探》しにゆくのだから。」  と|たの《頼》みました。  親方はマルコの様子をじろじろと見ながら 「お前をのせてゆく場所がない。」  とつめたく答えました。  マルコは一生懸命になって、|たの《頼》みました。 「ここに十五リラあります。これをさしあげます。そして途中で働きます。牛や馬の飲水《飲み水》もはこびます。どんな御用でもいたします。どうぞつ《連》れて行って下さい。」  親方はまたじろじろとマルコを見てから、今度はいくらかやさしい声でいいました。 「おれたちはツークーマンへゆくのではない、サンチヤゴという別の町へゆくのだよ。だからお前をのせていっても途中で下《-お》りねばならないし、それに下《-お》りてからお前はずいぶん歩かなければならぬぞ。」 「ええ、どんな長い旅でもいたします。どんなことをしましてもツークーマンへまいりますからど《/ど》うかのせていって下さい。」  マルコはこういって|たの《頼》みました。  親方はまた、 「おい二十日《/二十日》もかかるぞ。つらい旅だぞ。それに一人で歩かねばならないのだぞ。」  といいました。  マルコは元気そうな声でいいました。 「はいど《/ど》んな事でもこらえます、おかあさんにさえあ《会》えるなら。どうぞのせていって下さい」  親方はとうとうマルコの熱心に動かされてしまいました。そして「よし」といってマルコの手を握りしめました。 「お前は今夜荷車《今夜’荷車》の中でね《寝》るのだよ。そして明日の朝、四時におこすぞ。」  親方はこういって家の中へ《へ’》はいってゆきました。  朝の四時《4時》になりました。星は|つめ《冷》たそうに光っていました。荷車の長い列はがたがたと動き出しました。荷車はみな六頭《/六頭》の牛にひかれてゆきました。そのあとからはたくさんな《の》馬もついてゆきました。  マルコは車に積んだ袋の上にのりました。がすぐに眠ってしまいました。マルコが目をさますと、荷車の列はとまってしまって、人足たちは火をたきながらパ《/パ》ンをやいて食べているのでした。みんなは食事がすむとしばらく|ひるね《昼寝》をしてそ《/そ》れからまた出かけました。みんなは毎朝五時に出て九時《/九時》にとまり、夕方の五時に出て十時《/十時》にとまりました。ちょうど兵隊が行軍するのと同じように規則正しくやりました。  マルコはパンをやく火をこしらえたり牛《/牛》や馬にのませる水をく《汲》んできたり角灯《/角灯》の掃除をしたりしました。  みんなの進む所は、どちらを見ても広い平野が|つづ《続》いていて人家《/人家》もなければ人影も見えませんでした。たまたま二三人の旅人が馬にのってくるのにあ《会》うこともありましたが、風のように一散にか《駆》けてゆきました。くる日もくる日もただ広い野原しか見えないのでみ《/み》んなは、|たいくつ《退屈》で|たいくつ《退屈》でたまりませんでした。人足たちはだんだん意地悪くなって、マルコをおどかしたり無理使《/無理使い》したりしました。大きな秣をはこばせたり、遠い所へ水をく《汲》みにやらせたりしました。そして少しでもおそいと大《/大》きな声で叱りつけました。  マルコはへとへとにつかれて、夜になっても眠ることが出来ませんでした、《:、》荷車はぎいぎいとゆれ、体はころがるようになり、おまけに風が吹いてくると赤《/赤》い土ほこりがたってきて息《/息》をすることさえ出来ませんでした。  マルコは全く|つか《疲》れは《果》ててしまいました。それに朝から晩まで叱られたりいじめられたりするので日《/ヒ》に日に元気もなくなってゆきました。ただマルコをかわいがってくれるものは親方だけでした。マルコは車のすみに小さくうずくまってふ《/ふ》くろに顔をあてて泣いていました。  ある朝、マルコが水を汲んでくるのがおそいといって人足《/人足》の一人が、彼《/彼》をぶちました。それからというものは人足たちは代る代る彼を足でけりながら、「この|宿な《’宿無》し犬め」といいました。  マルコは悲しくなってた《/た》だすすりあげて泣いていました。マルコはとうとう病気になりました。三日のあいだ荷車《/荷車》の中で何もた《食》べずに苦しんでいました。ただ水をくれたりして親切《/親切》にしてくれるものは親方だけでした。親方はいつも彼のところへき《来》ては、 「しっかりせよ。母親にあ《会》えるのだから」  といって|なぐさ《慰》めてくれました。  マルコは、もう自分は死ぬのだと思いました。そしてしきりに「おかあさん。もうあ《会》えないのですか。おかあさん|。」《」》といって胸の上に手をく《組》んで祈っていました。  親方は親切に看護をしたので、マルコはだんだんよくなってゆきました。すると今度は一番安心することの出来ない日がきました。それはもう九日も旅をつづけたのでツ《/ツ》ークーマンへゆく道とサ《/サ》ンチヤゴへ行く道との分れる所へ来たからです。親方はマルコに別れなければならないことをいいました。  親方は何かと心配して道《/道》のことを教えてくれたり歩《/歩》く時にじゃまにならないようにふくろをかつがせたりしました。マルコは親方の体にだ《抱》きついて別《/別》れのあいさつをしました。 ◇。◇。◇。 【第三章】 ──── ◇。◇。◇。  マルコは青い草《’草》の道に立って手《/手》をあげながら荷車の一隊を見送っていました。荷車の親方も人足たちも手をあげてマルコを見ていました。やがて一隊は平野の赤い土ほこりの中にかくれてしまいました。  マルコは草の道を歩いてゆきました。夜になると草のしげみへはいってふ《/ふ》くろを枕にして眠りました。やがて|いく《幾》日かたつと彼《/彼》の目の前に青々とした山脈を見ることが出来ました。マルコは飛びたつようによろこびました。山のてっぺんには白い雪が光っていました。マルコは自分の国のアルプス山《サン》を思い出しました。そして自分の国へ来たような気持《気持ち》になりました。  その山はアンデズ山《サン》でありました。アメリカの大陸の脊骨《背骨》をつくっている山でした。空気もだんだんあたたかになってきました。そして所々に小さい人家が見えてきました。小さい店もありました。マルコはその店でパンを買ってた《食》べました。また黒い顔をした女や子供たちにも|であ《出会》いました。その人たちはマルコをじっと見ていました。  マルコは歩けるだけ歩くと木《/木》の下に眠りました。その次の日もそうしました。そうするうちに彼の元気はすっかりなくなってしまいました。靴は破れ足《/足》から血《血’》がにじんでいました、《:、》彼はしくしく泣きながら歩き出しました。けれども「おかあさんにあ《会》えるのだ|。」《」》と思うと足の|いた《痛》さも忘れてしまいました。  彼は元気を出して歩きました。|ひろ《広》いきび畑を通ったり、は《果》てしない野《/野》の間をぬけたり、あの高い青い山を見ながら四日、五日、一週間もた《経》ちました。彼の足からはた《絶》えず血が《が’》にじみ出ました、また急に元気がなくなって来ました、《:、》でもとうとうある日の夕方一人《夕方/一人》の女の人にあいましたから、 「ツークーマンへはここからいくらありますか。」  とたずねました。  女の人は、 「ツークーマンはここから二哩《二マイル》ほどだよ。」  と答えました。  マルコはよろこびました。そしてなくした元気をとりもどしたように歩き出しました。しかしそれはほんのしばらくでした。彼の力はすぐに抜けました。けれども心の中はうれしくてなりませんでした。  星はきらきらとかがやいていました、《:、》マルコは草の上に体をのばして美《/美》しい星空を眺めました。この時はマルコの心は幸福でありました。マルコは光っている星に話でもするようにいいました。 「ああお《/お》かあさん、あなたの子のマルコは今ここにいます。こんなに近くにいます。どうぞ無事でいて下さい、おかあさん、あなたは今何《今’何》を思っていられますか。マルコのことを思って下さるのですか。」  マルコの母親は病気にかかってメ《/メ》キネズの立派な|やしき《屋敷》にね《寝》ていました。ところがメキネズは思いがけずブ《/ブ》エーノスアイレスから遠くへ《へ’》出かけねばならなくなりコ《/コ》ルドバへきたのでした、《:、》その時母親《とき母親》は腫物《ハレモノ》が体の内に出来たので外科《/外科》のお医者さんにかかるためツ《/ツ》ークーマンに見てもらっていたのでした。けれども大変な重い病気だったのでど《/ど》れだけたっても|なお《治》りませんでした。それで手術をしてもらうということになりました。けれども母親は 「わたしはもうこらえる力がありません。手術のうちに死んでしまいます。どうかこのまま死なせて下さい。わたしはもう苦しまずに死にとうございます。」  といいました。  主人と奥さんは「手術をうけると早く|なお《治》るから、もっと元気を出しなさい、子供たちのためにも早く|なお《治》らなければなりません|。」《」》としずかにいってきかせました。  母親は《は’》たださめざめと泣きだしました。 「おお子供《/子供》たち、みんなはもう生きていないだろう。わたしも死んでゆきたい。旦那様、奥さま、ありがとうございます。何かとお世話になりましてありがとうございます。わたしはもうお医者さまにかかりたくありません。わたしはここで死にとうございます。」  主人は「そんなことをいうものではない」といって女の手をとって慰めました。  けれども彼女はまるで死んだように眼をとじていました。主人と奥さんとはろうそくのかすかな光でこ《/こ》のあわれな女を見守っていました。「家を助けるために三千里も|はな《離》れた国へき《来》て、あんなに働いたあとで死んでゆく。|ほん当《本当》に可哀そうだ。」主人はこういってそこにぼんやりと立っていました。  マルコは|いた《痛》い足をひきずりながら、ふくろをせおって次ぎの日の朝早くア《/ア》ルゼンチンの国でもっともにぎやかな町であるツ《/ツ》ークーマンの町へはいりました。ここもまた同じような街で、まっすぐな長い道と、ひくい白い家《’家》とがありました。ただマルコの目をよろこばしたものは大《/大》きな美しい植物と、イタリイでかつて見たこともないようにすみ切った青空でありました。彼は街をずんずん歩いてゆきました。そしてもしか母親にあ《会》いはしないかと女《/女》の人にあ《会》うたびにじっと見ました。女の人みんなに自分の母親でないかたずねてみたい心持《心持ち》になりました。街の子供たちは四五人《シゴニ-ン》あつまってきて、みすぼらしいほ《/ほ》こりだらけの少年をじっと見ていました。  しばらく行くと道の左かわにイ《/イ》タリイの名の書いてある宿屋の看板が目につきました。中には眼鏡をかけた男の人がいました。  マルコはか《駆》けていってたずねました。 「ちょっとおたずねしますがメ《/メ》キネズさんの家はどちらでしょうか。」  男の人はちょっと考えていましたが、 「メキネズさんはここにはいないよ。ここから六哩《六マイル》ほど|はな《離》れているサラヂーロというところだ。」  と答えました。  マルコは剣で胸をつかれたようにそこに打ち倒れてしまいました。すると宿屋の主人や女たちが出てきて、「どうしたのだ、どうしたというのだ、」といいながらマ《/マ》ルコを部屋の中へ入れました。  主人は彼をなだめるようにいいました。 「さあ、何も心配することはない。ここからしばらくの時間でゆける。川のそばの大きな砂糖工場がたっているところにメ《/メ》キネズさんの家がある。誰でも知っているよ、安心なさい、」  しばらくするとマルコは生きかえったようにお《起》き上《上が》りながら、 「どちらへ行くんです、どうぞ早く道を教えて下さい。私はすぐにゆきます。」  といいました。  主人は、 「お前はつかれている、休まないと行かれない。今日はここで休んで明日ゆきなさい、一日かかるのだから。」  とすすめました。 「いけません。いけません。私は早くおかあさんにあ《会》わなければなりません。すぐにゆきます。」  マルコの強い心に動かされて、宿屋の主人は一人の男をわ《/わ》ざわざ町はずれの森まで送ってよこしました。マルコは大変よろこんで教《/教》えてもらった道を急ぎました。道の両がわにはこんもりとした並木が立ちならんでいました。マルコは足の|いた《痛》いことも忘れて歩きました。  その夜母親は大そう苦しんでも《/も》う息も切れ切れに、「お医者さまを呼んで下さい。助けて下さい。わたしはもう死にます。」  といいました。  主人や奥さんや女中たちは女の手をとってなぐさめました。  もう夜中でありました。マルコはもう歩む力もなくなって|いく度《/幾度》となく|ころ《転》びました、けれどもマルコは「おかあさんにあ《会》えるのだ|。」《」》という心が胸にわいてきて足《/足》の|いた《痛》いことも忘れてしまいました。  やがて東の空がしらじらとあけてきて、銀のような星も次第《/次第》に消えてゆきました。  朝の八時になりました。ツークーマンのお医者さんは若《/若》い一人の助手をつれて病人《/病人》の家へ来ました。そしてしきりに手術をうけるようにすすめました。メキネズ夫婦もそれをすすめました。けれどもそれは無駄でした。女はどうしても手術をうける気はありませんでした。手術をうけないうちに死んでゆくのだとあきらめているからでした。医者はそれでもあきらめずにも《/も》う一度《一度’》いってみました。  けれども女は、 「わたしはこのまま安らかに死んでゆきとうございます。」  といいました、そしてまた消えてゆくような声で、 「奥さま、わたしの荷物と、この少しばかりのお金を家《/家》の者に送ってやってください、私はこれで死んでゆきます。どうぞ私の家へ手紙も出して下さい。わたしは子供を忘れることが出来ません。小さい子のマルコはどうしているでしょう、ああマ《/マ》ルコが‥‥」  といいました。  その時、主人もいませんでした。奥さんはあわただしくか《駆》けてゆきました。しばらくすると医者はよろこばしい顔をしてはいってきました。主人も奥さんもはいってきました。そして病人に、いいました。 「ジョセハ、うれしいことをきかせてあげるよ。」 「おどろいてはいけません。」  女はじっとその声をきいていました。  奥さんは 「お前がよろこぶことですよ、お前の大そう可愛がっている子にあ《会》うのですよ。」  女はきらきらする目で奥さんを見ました。そしてありったけの力を出して頭をあげました。  その時でした、ぼろぼろの服をきてほ《/ほ》こりだらけになったマルコが入口に立ったのでした。  女はびっくりして「あっ」と叫び声をあげました。  マルコはか《駆》けよりました。母親はや《痩》せた細い手をのばしてマルコをだきしめました。そして気ちがいのように「どうしてここへ来たの|ほんとう《/本当》にお前なのか。本当にマルコだねえ、ああ|ほんとう《本当》に」と叫びました。  女はすぐに医者の方《ほう》をむいてい《言》い出しました。 「お医者様、どうぞ|なお《治》して下さい。早く手術をして下さい。わたしは早くよくなりたいです。どうぞお医者さま、マルコに見せないで。」  マルコは主人につれられて部屋を出ました。奥さんも女たちもいそいで出てゆきました。  マルコは不思議でなりませんでしたから、 「おかあさんをどうするのですか。」  と主人にたずねました。  主人はおかあさんが病気だから手術《/手術》を受けるのだといいました。  と不意に女の叫び声が家中《’家じゅう》に|ひび《響》きました。  マルコはびっくりして「おかあさんが死んだ|。」《」》と叫びました。  医者は入口に出て来て「おかあさんは助かった、」といいました。  マルコはしばらくぼんやりと立っていましたが、やがて医者の足許へか《駆》けていって泣きながら、 「お医者さま、ありがとうございます。」  といいました。  しかし医者はマルコの手をとってこういいました。 「マルコさん。おかあさんを助けたのは私ではありません。それはお前です。英雄のように立派なお前だ!」 ◇。◇。◇。 【底本:「家なき子」九段書房】 【1927(昭和2)年10月15日発行】 【入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(前田一貴)】 【校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)】 【2005年6月15日作成】 【青空文庫作成ファイル:】  このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http|://《コロン/スラッシュスラッシュ》www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。